大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 平成9年(ワ)504号 判決 2000年3月24日

当事者の表示

別紙一記載のとおり

主文

一  両事件被告は、別紙二原告欄記載の甲事件原告らに対し、別紙二未払賃金合計欄記載の各金員及びこれに対する平成九年一一月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  両事件被告は、別紙二原告欄記載の甲事件原告らに対し、別紙二付加金欄記載の各金員を支払え。

三  両事件被告は、別紙三原告欄記載の乙事件原告らに対し、別紙三未払賃金合計欄記載の各金員及びこれに対する平成一〇年四月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  両事件被告は、別紙三原告欄記載の乙事件原告らに対し、別紙三付加金欄記載の各金員を支払え。

五  両事件被告は、両事件原告鎌田和憲に対し、平成八年九月から本判決確定に至るまで、毎月二八日限り、金二万四四一八円を支払え。

六  両事件原告鎌田和憲の本判決確定後の給与の支払を求める訴えを却下する。

七  甲事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

八  訴訟費用は、甲事件についてはこれを三分し、その一を甲事件原告らの、その余を両事件被告の、乙事件については両事件被告の、それぞれの負担とする。

九  この判決は、第一項、第三項及び第五頂にかぎり、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  両事件被告は、別紙四<略>原告欄記載の甲事件原告らに対し、別紙四合計金額欄記載の各金員、及び別紙四未払賃金合計欄記載の各金員に対する平成九年一一月二日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  両事件被告は、別紙三原告欄記載の乙事件原告らに対し、別紙三合計金額欄記載の各金員、及び別紙三未払賃金合計欄記載の各金員に対する平成一〇年四月八日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  両事件被告は、両事件原告鎌田和憲に対し、平成八年八月二一日から、毎月二八日限り、金四万八八三六円を支払え。

第二事案の概要

本件は、タクシー会社である両事件被告の乗務員である両事件原告及び甲事件高橋末明らが、両事件被告会社の賃金制度は、実質的には累進歩合制であって、超勤深夜手当が支払われていないなどとして、両事件被告に対し、右未払賃金及び労働基準法一一四条に規定する付加金の支払を求めた事案である(平成五年五月から平成八年六月分までの請求が前記請求一であり、同年七月から平成九年一二月分までが前記請求二である。なお、前記請求三は、両事件原告鎌田和憲は、平成八年八月に解雇されているのであるが、右解雇は無効であるから、賃金債権もしくは不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき請求するものである。)。

(争いのない事実等―末尾に証拠の記載があるものは証拠によって認定した事実)

一  両事件原告ら及び甲事件高橋末明(以下、「原告」という。)は、被告会社に勤務するタクシー乗務員であり、全国一般労働組合徳島南海タクシー支部(以下、「全国一般労組」という。)の組合員である。

両事件被告(以下、「被告」という。)は、一般乗用旅客自動車運送事業(いわゆるタクシー業)を営む株式会社であり、その資本金は一三〇〇万円で、肩書住居地に本社を有するとともに、鳴門市内に営業所を有している。また、被告は徳島バス株式会社の一〇〇パーセント子会社である。

二  被告会社のタクシー乗務員は、昭和六一年四月一〇日に組合と被告会社との間で締結された協定書の付帯協定事項により、日勤勤務と二交替勤務とに区別されている。

日勤勤務者の勤務時間は、就(ママ)業時刻八時、就(ママ)業時刻二二時の拘束一四時間、休憩二時間、時間外労働四時間と定められている。

二交替勤務者の勤務時間は、就(ママ)業時刻九時、終業時刻翌日六時の拘束二一時間、休憩三時間、時間外労働二時間と定められている。

三  昭和五六年七月、被告会社と徳島南海タクシー労働組合、総評全国一般労働組合南海タクシー支部との間で協定書を交わしたが、そこには賃金体系について次のように記載されていた。【(証拠略)】

1  固定給

基本給 月額六万七六〇〇円

皆精勤手当 月額五〇〇〇円

乗務手当 月額一万三〇〇〇円

超深手当定額 月額四万八四〇〇円

合計 一三万四〇〇〇円

ただし、各人一か月の水揚額三〇万円未満のときは、上記固定給は支給しない。

2  歩合給加算

各人一か月の水揚額三〇万円以上のときは、三〇万円を超えた水揚額に対し、四七パーセント相当額の歩合給を加算する。

四  昭和六一年四月一〇日、被告会社と徳島南海タクシー労働組合及び徳島県自動車交通労働組合は協定書を交わしたが、そこには賃金体系について次のように記載されていた(以下、「本件協定書」という。)。【(証拠略)】

1  第一条

乗務員の賃金は、毎月における責任水揚額の達成と所定労働日数二六日、所定労働時間二〇八時間勤務した場合を基礎として、賃金額とその区分を次のとおりとし固定する。

基本給 八万五〇〇〇円

乗務給 一万三〇〇〇円

皆精勤手当 五〇〇〇円

超勤深夜手当(歩合割増含) 五万〇六〇〇円

合計 一五万三六〇〇円

2  第二条(責任水揚額)

各人一か月三二万円とする。

3  第三条(水揚額に対する賃金比率)

賃金比率は、つぎの率を基本とし、第一条の賃金区分の計算とする。

<水揚額に対する賃金比率表>

<省略>

4  第四条(歩合加給)

各人第二条の責任水揚額を超えたときの計算は、つぎのとおり行い、歩合加給とする。

水揚額×賃金比率-一五万三六〇〇円=歩合加給額

5  第五条(賃金計算の特別措置)

各人一か月間で四勤務以内の欠勤で責任水揚額を達成できなかったとき、次の条件を具備する者に限り、当該月水揚額の四五パーセント相当額の賃金支給総額とする特別計算を行う。

(一) 過去三か月間責任水揚額以上の水揚実績がある者

(二) つぎの計算方式により算出したみなし水揚額が三〇万円以上の場合に限る。

当該月水揚額÷実出勤日数=一日平均水揚額

一日平均水揚額×二六=みなし水揚額

6  賞与支給基準

(一) 夏期分(一一月二一日から翌年五月二〇日まで)、冬期分(五月二一日より一一月二〇日まで)の期間における総水揚額を基準として、日勤勤務者一七五万円以上、二交替勤務者一五五万円以上の者に限り、各人の水揚額の三パーセント相当額を支給する。

(二) 右水揚額に達しない者には支給しない。

五  昭和六三年三月一九日、被告会社と総評全国一般労組徳島南海タクシー支部及び徳島南海タクシー労働組合は、本件協定書の賃金比率を次のように変更する協定書を締結した。【(証拠略)】

<賃金比率>

<省略>

六  平成三年九月二一日、被告会社と全国一般労組及び徳島南海タクシー労働組合は、平成三年六月二四日の運賃改正に伴い水揚げの増大が見込まれることになったので、同日以降、毎月の水揚額の一〇パーセントを増収分とみなし、その部分については賃金比率を特別に七二パーセントとして歩合加給する旨の確認書を締結した。【(証拠略)】

七  全国一般労組は、被告会社の賃金体系が歩合制であり、割増賃金が未支給であるとして、平成元年三月二〇日以降、その支払を要求するとともに、徳島労働基準監督署に申告書を提出して、被告会社に対する指導を求めてきたが、同監督署は、平成四年二月二八日付けで、被告会社に対し、割増賃金を支払うようにとの是正勧告をなした。

これに基づき、全国一般労組は、被告会社に未払賃金の支払を求めたが、被告会社は一律に一〇万八〇〇〇円を支払うことで一切を解決し、将来的には時間外手当を支払わない旨回答した。

そこで、原告らは、平成三年五月から平成五年四月分までの未払賃金等の支払を求めて訴えを提起し、平成七年、徳島地方裁判所において原告らの主張が認められ(以下、「第一次判決」という。)、高松高等裁判所においても被告会社の控訴は棄却され、上告も棄却された。【(証拠略)】

八  平成八年四月から五月にかけて、被告会社は徳島南海労働組合及び徳島南海タクシー労働組合との間で、一週間あたりの労働時間を四四時間とし、賃金について次のように記載された内容の協定書を締結した。【(証拠略)】

1  月例賃金は、歩合給(出来高給)制とする。

2  日勤勤務

(一) 歩合給(出来高給)

月間営業収入に対し、次の歩合給率により支給する。

歩合給率 四八・七〇パーセント

(二) 時間外手当 法定どおり支給する。

歩合給×〇・〇六七八

3  隔日勤務

(一) 歩合給(出来高給)

月間営業収入に対し、次の歩合給率により支給する。

歩合給率 四六・二七パーセント

(二) 深夜労働手当 法定どおり支給する。

歩合給×〇・〇八一六

(三) 時間外手当 法定どおり支給する。

歩合給×〇・〇四二四

九  平成八年一〇月二日、被告会社は徳島南海労働組合及び徳島南海タクシー労働組合との間で、一週間あたりの労働時間を四〇時間とし、賃金について次のように記載された内容の協定書を締結した。【(証拠略)】

1  月例賃金は、歩合給(出来高給)制とする。

2  日勤勤務

(一) 歩合給(出来高給)

月間営業収入に対し、次の歩合給率により支給する。

歩合給率 四七・八八パーセント

(二) 時間外手当 法定どおり支給する。

歩合給×〇・〇八六二

3  隔日勤務

(一) 歩合給(出来高給)

月間営業収入に対し、次の歩合給率により支給する。

歩合給率 四五・三七パーセント

(二) 深夜労働手当 法定どおり支給する。

歩合給×〇・〇八五二

(三) 時間外手当 法定どおり支給する。

歩合給×〇・〇六一二

一〇  なお、原告鎌田は、平成八年八月二一日、被告会社から解雇を通告されたが、平成一一年六月一一日、徳島地方裁判所において、右解雇を無効とする判決が言い渡された。【(証拠略)】

(争点)

一  超勤深夜手当の支払の有無

二  前記争いのない事実等八及び九記載の就業規則の変更の効力は、原告らにも及ぶか。

三  未払賃金額の算定

四  消滅時効の成否

五  付加金の支払を命じることの可否

六  原告鎌田の損害額の算定

(当事者の主張)

一  争点一について

1  被告の主張

(一) 総評全国一般労働組合徳島南海タクシー支部と被告会社は、昭和五六年八月一〇日、労働協約を締結し、超勤深夜手当として、四万八四〇〇円が毎月支給されることが合意された。同じころ、徳島南海タクシー労働組合と被告会社は、同じ内容の協定書(<証拠略>)を締結した。

右合意に至るまで、昭和五六年始めころから、一週間に何度かの頻度で労使間に交渉が行われ、右交渉には組合側から三役(支部長、副支部長、書記長)と上部団体のオルグ員が参加していた。その交渉の結果、時間外労働や深夜労働による割増賃金として四万八四〇〇円の支給が合意されたもので、右合意は労使間の十分な協議を経たうえでなされたものである。

(二) もっとも、本来であれば、タコメーターのチャート紙で実労働時間を一人一人調査し、その時間に基づき、超勤深夜手当を具体的に算定すべきであるが、組合がこのような方法を嫌がったので、実際に深夜、時間外の労働をしているのかどうか、またその時間数に拘わらず、右金額の支給をするとのことで合意に達したのである。

タクシー運転手の労働は、夜から深夜にかけてがいわゆる稼ぎ時であり、深夜、時間外の労働が、その業務の性質上当然に予定されている。他方で、毎日の深夜、時間外の勤務時間やその間の運転手の勤務状況等の正確な把握は容易でなく煩雑であることから、実際に深夜、時間外の労働をしているかどうか、またその時間数に拘わらず、労使間の合意で一定額を支給することは、タクシー運転手の勤務形態に照らし、十分合理性がある。

(三) 昭和六〇年に入ってから、運賃の改定に伴い、賃金体系についての交渉が再開され、度重なる交渉のなかで昭和六〇年一二月二一日付けで徳島南海タクシー労働組合及び徳島県自動車交通労働組合と被告会社との間で覚書(タイトルは議事録)が交わされ、県評幹事の立会いのもとで、組合の執行委員長と会社が調印をし、歩合割増を含む超勤深夜手当を五万〇六〇〇円と改定することで合意に達した。このころ、原告らが右合意をした徳島南海タクシー労働組合に所属していたことは、原告らも認めるところである。

その後、昭和六一年四月一〇日、右覚書に従って、本件協定書が締結され、平成三年には全国一般労組と被告会社の間で、これまで労使間で積み上げてきた賃金体系を前提に、毎月の水揚げ額に対する増収分に対して一定割合で賃金を支給する確認書が交わされた。

(四) 右のような労使間の交渉の積み重ねによって合意された協定書、覚書、確認書等に従って、日勤五万〇六〇〇円(隔勤四万六三〇〇円)が割増賃金として今日まで支給されてきたことは事実である。そして、賃金総額のうち、いくらが割増賃金にあたるのかが労使間の協定により明瞭に区別されているものである。

よって、原告らの請求は、二重支払を要求するものであって、認められない。

また、仮に、右のような合意に基づく支給形態が労働基準法に厳密に合致しなかったとしても、計算し直された支給されるべき金額から、右現実の支給済額が控除されるべきことは当然である。

2  原告らの主張

(一) 被告は、昭和六〇年一二月二一日に超勤深夜手当を五万〇六〇〇円とすることに合意に達したと主張するが、同日の段階では交渉過程にすぎず、(証拠略)も「議事録」としている。なお、同日の覚書のなかにおいても、右金額が合意に達したとは書かれていない。

本件協定書は、被告会社と徳島南海タクシー労働組合との間で締結されたものであるが、原告らは、右締結以前に、右組合を脱退し、別組合を結成していることから、右協定書は原告らに適用されない。

(二) 仮にその点を譲っても、「超勤深夜手当」の文言があるからといって、深夜割増手当が支払われていたとするのは、全く事実に反する。

被告会社が、原告ら運転業務に従事するものに対して、労働協定の中で、「超深手当定額」等と記載するようになったのは、昭和五六年以降のことである。これは、タクシー運転手の給与が、従来は、ノルマ及び累進歩合制賃金がとられていたために、長時間労働を余儀なくさせられ、疲労から注意力が散漫となり、事故が多発するなどしていたために、昭和五四年に、労働省がノルマ及び累進歩合制賃金を廃止するようにとの通達を出したことに起因している。本件協定書についても同様である。すなわち、被告は、右通達に配慮して、形だけ「超勤深夜手当」の文言を入れるようになったのであり、実態は、割増ではなく、依然として水揚げによる歩合制に他ならなかった。労使双方とも、時間外労働や深夜労働の割増手当の認識はなく、ましてや十分な協議もなかった。

したがって、被告会社の給与体系が水揚げによる歩合制に他ならない以上、割増賃金が支払われていたわけではないのであるから、原告らの請求が二重払いとなることはない。

二  争点二について

1  被告の主張

(一) 平成八年六月二一日及び同年一〇月二一日、就業規則は改正されたが、これにより労働者の労働条件は従来に比べ向上しており、その変更には合理性がある。

(二) 労働時間について

改正前と改正後における、一日あたりの拘束時間数、労働時間数、一か月あたりの拘束時間数、労働時間数及び所定労働時間数のすべてが就業規則の改正により向上している。

(三) 賃金について

一か月四〇万円の水揚げがあった場合を具体例として、改正前後の賃金額を計算すると、一週間の所定労働時間を四四時間と短縮したことに伴う平成八年六月二一日付け改正後、オール歩合給に変更されたが、別紙五(<証拠略>)のとおり、労働者の賃金は改正前とほぼ同水準である。一週間の所定労働時間を四〇時間に短縮したことに伴う平成八年一〇月二一日付け改正後の賃金も同様である。

また、平成八年六月二一日改正前の賃金比率は段階的比率になっていたのに対し、改正後はこれをやめて歩合給率を一律に日勤四八・七パーセント、隔日勤務四六・二七パーセントとし、割増賃金については、労働基準法にのっとり時間外、法定休日、法定外休日、深夜にわけて規定している。なお、割増賃金の実際の支給計算方法については、一か月平均の超過勤務時間を算出のうえ、前記争いのない事実等八記載のとおり、計算して支給する旨二組合(徳島南海タクシー労働組合、徳島南海労働組合)と労使協定を結び実施した。

さらに、一週間の所定労働時間が四〇時間以内となったことに伴う平成八年一〇月二一日改正後は、月間営業収入に対する歩合給率を日勤四七・八八パーセント、隔日勤務四五・三七パーセントとし、その代わりに、超過勤務時間が事実上増えることにかんがみ、一か月平均の超過勤務時間を算出のうえ、前記争いのない事実等九記載のとおり、計算して支給する旨前記二組合と労使協定を結び実施した。

よって、賃金規定の改正内容にも合理性がある。

(四) 手続について

いずれの改正時にも、全自交徳島南海タクシー労働組合及び徳島南海労働組合との間では団体交渉のうえ協定書を締結した。また、組合に加入していない従業員にも説明のうえ納得を得ており、平成八年六月二〇日時点で七〇名の従業員のうち、四八名(六八・五パーセント、三分の二以上)の同意を得ており、平成八年一〇月時点でも六九名の従業員のうち四七名(六七・一パーセント、三分の二以上)の同意を得ている。

原告らが所属する全国一般労組との間では、平成七年一〇月二四日から平成八年五月二七日まで一二回の協議の場を持った。

改正後の就業規則は、いずれも労働者代表の同意を得て、徳島労働基準監督署に提出済みである。

2  原告らの主張

(一) 今回の就業規則の変更は、第一次判決の趣旨に反して、給与体系を歩合制とした上で、時間外手当を従来の歩合給五二パーセントに含ませるために、歩合率を引き下げたものである。よって、労働者にとって、明らかに不利益なものである。

被告は労働条件は向上していると主張するが、向上したか否かを比較する対象が誤っている。被告が向上しているというその比較対象たる改正前の割増賃金については、先行する第一次判決をもとに比較すべきである。そうであれば、超過勤務あ(ママ)る場合には従前の方が従業員にとって収入がよく、就業規則の改正によって減収となったことは明らかであり、大幅な不利益変更である。実際問題として、被告会社は繰り返し「赤字」を理由に従業員に労働条件の切り下げを求めているのであり、被告会社が進んで従業員の給与が向上するように就業規則を変更することは考えられない。したがって、不利益変更であることは明らかである。

(二) 不利益変更は原則として許されないのであり、それが有効とされるのは例外である。

本件をみてみるに、実質的に従業員の不利益の度合は大きく、これが認められれば本件請求が認められなくなるのである。一方、被告会社がいう「赤字」についての、労働者に対する具体的説明はこれまで全くなく、不利益変更を合理化するものではない。

次に、鳴門営業所においては固有の就業規則が作られておらず、違法である上、一〇月の規則変更については、従業員に全く周知されていない。変更にあたって意見聴取をおこなった人物は、法廷で最低賃金以下でも働くことを認めると述べるなど、およそ労働者の代表とは言えない。変更につき、原告らの所属する組合の支持を得ていないのはもちろんのこと、別組合の者にしても真の支持は得ておらず、それ故に、脱退が生じているのである。

このように、変更については、手続的にみても合理性を有していないのである。

三  争点三について

1  原告らの主張

労働基準法三七条が定める原告らに対する平成五年五月分からの未払割増賃金は、別紙三及び四の未払賃金合計欄記載のとおりであるが、これは各人の日報により出勤日数・水揚高を調査し、これらを以下の計算式にあてはめて算出したものである。

(一) 日勤者

(1) 勤務時間(一二時間)×勤務日数=総労働時間

(2) 時間外(四時間)×勤務日数=総時間外時間

(3) 水揚額×賃金比率=賃金

(4) 賃金÷総労働時間=一時間当たりの賃金

(5) 一時間当たりの賃金×〇・二五×総時間外時間=未払割増賃金

(二) 二交替勤務者

(1) 勤務時間(一八時間)×勤務日数=総労働時間

(2) [時間外(二時間)十深夜勤務時間(六時間)]×勤務日数=総時間外及び深夜時間

(3) 水揚額×賃金比率=賃金

(4) 賃金÷総労働時間=一時間当たりの賃金

(5) 一時間当たりの賃金×〇・二五×総時間外及び深夜時間=未払割増賃金

2  被告

争う。

四  争点四について

1  被告の主張

原告らの請求のうち、平成五年五月分から平成七年九月分までについては、本訴提起までに二年を経過しているので、労働基準法一一五条の消滅時効を援用する。

2  原告らの主張

争う。

五  争点五について

1  原告らの主張

全国一般労組は、被告会社の賃金体系が歩合制であり、割増賃金が未支給であるとして、平成元年三月二〇日以降、被告会社に対してその支払の請求を続けるとともに、徳島労働基準監督署に申告書を提出して被告会社に対する指導を求めてきたが、同監督署は、平成四年二月二八日付けで全国一般労組の主張を認め、被告会社に対し、割増賃金を支払うようにとの是正勧告をなした。

右是正勧告に基づき、全国一般労組は未払割増賃金の支払を求めたが、被告会社は、一律に一〇万八〇〇〇円を支払うことで一切を解決し、将来的には時間外手当を支払わない旨回答してきたため、全国一般労組の組合員らは右回答を拒否し、平成五年九月訴訟提起に至った。この訴訟は原告勝訴となり、上告も棄却された。

以上のとおり、被告会社は、徳島労働基準監督署から是正勧告を受けたにもかかわらず、その賃金体系を改善しようとしないばかりか、一律に一〇万八〇〇〇円の支払いで将来の未払割増賃金をも放棄させようとする態度は、低賃金で働かされている原告らに右金額を提示することによって組合内部に動揺を引き起こそうとするものであり、このような被告会社の態度に対しては、労働基準法一一四条に基づき、平成五年五月分以降の未払割増賃金について付加金の支払を命じるべきである。

2  被告の主張

争う。

六  争点六について

1  原告鎌田の主張

原告鎌田の平成八年三月から八月までの平均時間外手当金二万四四一八円に同額の付加金を加算した金額四万八八三六円を請求するものである。

原告鎌田が他の原告らと異なるのは、他の原告らは実際に超過勤務を行っているのに対し、原告鎌田は解雇のために、実際の超過勤務を行っていない点である。

しかし、原告鎌田の右解雇は不当であり、これがなければ従前同様の超過勤務を行っていると考えられる。

それ故、賃金債権ないしは不法行為(違法解雇)に基づく損害賠償請求権として、請求を行う。

2  被告の主張

争う。

第三当裁判所の判断

一  争点一について

1  被告は、本件協定書に基づき超勤深夜手当を支払ってきた旨主張し、これに対し、原告らは、本件協定書に基づく賃金体系は、実質的には累進歩合制であるから、超勤深夜手当は支給されていない旨反論する。そこで、本件協定書に基づく賃金体系の下、労働基準法三七条に基づく時間外等手当が支払われてきたと認められるのか否かについて、検討する。

2  本件協定書には、固定給として超勤深夜手当(五万〇六〇〇円)が規定されているが、これは、水揚額が責任水揚額(三二万円)に達しないときには、そもそも支給されない(<証拠略>)。また、水揚額が責任水揚額を超える場合には、本件協定書第四条により、水揚額に賃金比率を乗じた額から、基本給などの固定給と同額の一五万三六〇〇円が引かれることになり、結局は、支給総額は水揚額に賃金比率を乗じた金額であり、固定給は支払われなかったことと同じ結果となる。このことに照らすと、本件協定書による賃金体系が実質的に固定給が保障されている賃金体系であり、超勤深夜手当が支給されていたと言えるのか疑問を抱かざるを得ない。

そして、昭和六二年に被告会社の代表取締役に就任した森稔は、右賃金体系によれば、実質は水揚額によって給料が決まり、労働基準法に違反しないように、超勤手当も含むという意味で金額を決めて支給していた旨述べている上(<証拠略>)、現に、原告らに配布された給料明細書をみると、水揚額と歩合割増しか記載されておらず、基本給など固定給部分の記載のないものがあったことが認められるのである(<証拠略>)。

そうすると、右賃金体系は、原告らが主張するように、累進歩合制とみるのが相当である。

3  なお、被告が主張するように、超勤深夜手当を定額として支払うことには、勤務状況を正確に把握することの困難さや煩雑さに照らし、合理性がないではなく、右のような支払方法につき合意があった場合においては、その過不足分を支払えば足りると解する余地もある。

しかしながら、右のような支払方法が労働基準法三七条にかんがみ、有効といえるためには、そのような支払方法についての実質的な合意があったことはもちろんのこと、通常の労働時間の賃金にあたる部分と時間外及び深夜の割増賃金にあたる部分とが判別できることが必要になると解される。さもなくば、同条に従った時間外手当等の支払いがなされているか否かの確認は不可能で、同条の趣旨を潜脱するおそれがあるからである。

そこで、本件をみてみるに、本件協定書に、先立つ昭和五六年の労使協定に基づく賃金体系においても、超勤深夜手当等の固定給という記載が見受けられるものの、これは、当時、労働基準監督署において、累進歩合制でない賃金制度を作るようにとの指導を受けたことから作成されたものであって、責任水揚額に達しないときには固定給は支給されないとされ(<証拠略>)、昭和五八年に入社した原告山崎は、給料体系について固定給制度であるとの説明を受けたことはなく(<証拠略>)、超勤深夜手当の具体的根拠も必ずしも明確でないことからすると、右協定締結当時、労使間において、超勤深夜手当が支給される旨の実質的合意があったとは認め難く、本件協定書締結に先だって、昭和六〇年一二月二一日、被告会社と徳島南海タクシー労働組合との間で、本件協定書と同旨の議事録が作成されており、協議がなされたことはうかがえるのであるが、本件協定書の賃金体系は、昭和五六年の労使協定に基づくものと、支給額の点を除いては、基本的に異なるものではなく、超勤深夜手当を支給することについて、新たに合意がなされたと認めるに足りる証拠はない。さらに、既に述べたように、原告らに配布された給料明細書においても、基本給など固定給の記載がないものも見受けられることからすると、通常の労働時間の賃金にあたる部分と時間外及び深夜の割増賃金にあたる部分とが判別できるものでもない。

そうすると、被告の右主張は、その前提となる、労使間の実質的合意の存在や、右のような判別可能性を欠くといわざるをえず、採用できない。

4  以上の次第で、原告らに対し、労働基準法三七条に基づく時間外等手当が支給されていたとは認められない。

二  争点二について

1  平成八年六月及び一〇月の就業規則の変更が、労働者にとって不利益な変更であるのか否かについて、被告は、変更の結果、別紙五(<証拠略>)のようになるのであるから、必ずしも不利益な変更とはいえない旨主張する。

なるほど、被告が争点一で主張しているように、従前の賃金体系においても超勤深夜手当が支給されているという前提で比較するかぎり、労働者にとって不利益な変更にあたらないと考える余地があるものの、右のような前提をとりえないことについては既に述べたとおりである。そして、被告主張の別紙五をみると、変更前の賃金に、後述のような超勤深夜手当が支給されるとなると、変更後、労働者の賃金が減額となるのであって、また、被告会社が就業規則を変更する理由のひとつとして、経営状況が悪化していることを挙げていることからしても、右規則の変更が労働者にとって不利益なものであるといわざるをえない。

2  ところで、就業規則を一方的に労働者にとって不利益な内容に変更することは、原則として許されるものではないが、就業規則の統一性や画一性といった性質にかんがみると、全く許されないものではなく、当該規則条項が合理性を有するものであるかぎり、これに同意しない労働者に対しても、その効力を及ぼすことができる。そして、右の合理性の有無の判断は、規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、変更の必要性の内容、程度、これに代替する他の労働条件の有無といった内容的側面のみならず、変更に反対する者の手続保障の充足、すなわち、変更に賛成する労働組合との交渉がこれに反対する労働者に変更後の規則の効力を及ぼすことを正当化しうるような内容、実質を有するものであったのかどうか、また、反対している労働組合とも合意に向けた誠実な交渉がなされたのかどうか、といった事情をも総合考慮して、判断するのが相当である。

3  そこで、右規則変更の効力がこれに反対していた原告らに及ぶのかを検討するに、証拠(<証拠・人証略>、原告山崎佳克、被告代表者久保俊雄)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社には、労働組合として、原告らの所属する全国一般労組のほかに徳島県自動車交通労働組合徳島南海タクシー労働組合が存在していたが、平成七年五月ころ、全国一般労組の組合員であった者が、同組合が超勤深夜手当の支払をめぐって提訴中であったことから、このままでは会社の存続にかかわると危惧して、同組合を脱退し、徳島南海労働組合を設立するに至った。

平成八年六月二〇日当時、従業員七〇名(運転手は六二名)のうち、全国一般労組の組合員が二二名、徳島南海タクシー労働組合の組合員が一九名、徳島南海労働組合の組合員が一六名であり、同年一〇月二日当時では、従業員六九名のうち、全国一般労組の組合員が二二名、徳島南海タクシー労働組合の組合員が一四名、徳島南海労働組合の組合員が一五名であった。

なお、平成九年一〇月時点においては、従業員六一名のうち、全国一般労組の組合員が二〇名、徳島南海タクシー労働組合の組合員が八名、徳島南海労働組合の組合員が一四名となり、平成一一年一〇月時点では、徳島南海タクシー労働組合の組合員は五名となっている。

(二) 被告会社においては、平成三年度をピークに運送収入が減少し、平成四年度からは赤宇に転じ、平成六年度においては四億円を超える累積赤宇を抱えるようになっていた。

このような経営状況に加え、被告会社は、平成六年一二月九日、徳島労働基準監督署から、労働基準法三六条に基づく協定の届出なく時間外労働を行わせ、かつ一か月及び一日の拘束時間が長くなっていることや、休日労働を行わせていることに対して是正勧告を受け、また、労働基準法改正により所定労働時間が短縮されたところ、被告会社は一週四八時間で短縮ができていなかったことから、労働時間の短縮と労働条件の改善を図るとともに、併せて賃金の累進歩合制度を廃止した新賃金制度を作成すべく、平成七年一〇月二四日、三労働組合に対し、個別に、労働時間と新賃金について提案を行った。

(三) 被告会社と徳島南海労働組合との交渉は、一一、二回行われ、執行委員長の西岡利幸の他に組合員が交替で参加していたが、同組合の交渉方針は、会社の存続を第一に考え、その次に従来の協定書より条件が悪くならないことを前提に交渉を進めてきたが、給与についても必ずしも最低賃金にこだわらないというものであった。そして、同組合では、交渉に先だって、組合員から意見を聞き、交渉の結果については、書面化して回覧するなどしていた。なお、西岡は、被告会社の経営状況について、四億円ないし五億円程度の負債があることは認識していたものの、その具体的な中身までは知らなかった。

被告会社と徳島南海タクシー労働組合との交渉は、一〇回程度行われ、同組合側からは山上幸市執行委員長や、上部団体の書記長である安田禎宏らが参加していた。なお、同組合においては、交渉に先だって、組合員から意見を聴取することなく、交渉は安田らに一任されていた。

なお、被告会社は、この度の変更は運転手に関する事項であったため、運転手以外の従業員に対しては、変更についての説明等は行わなかった。

右二労働組合との交渉において、被告会社は、当初、固定給と歩合給を併せた賃金制度を提案していたが、その後、組合側の意見を聞きながら、出来高制について協議し、出来高の五二パーセントを賃金とし、定年も五七歳から六〇歳に延長することで、合意するに至った。

(四) 他方、全国一般労組との交渉は、一二回程度行われ、当初は一時間から三時間程度行っていた。しかし、同組合が先に昭和六一年の協定書の内容を第一次判決の結果を踏まえて訂正することを主張したため、協議が進行せず、平成八年二月に、被告会社が出来高制について提案したのに対し、全国一般労組は賃金体系を固定給と歩合給その他乗務手当などとする内容の提案を行い、同年三月二八日、全国一般労働組合徳島地方本部の委員長を交えて交渉を行ったものの、合意に達せず、その後の交渉は五分ないし一五分程度のもので終わった。

(五) 被告会社は、前記争いのない事実等八記載のように、徳島南海タクシー労働組合や徳島南海労働組合と協定書を交わした上で、平成八年六月一〇日、徳島労働基準監督署に対し、就業規則の変更届を提出した。

右提出に先立ち、山上は徳島南海タクシー労働組合の執行委員長として、また、運転手個人として、変更に同意する旨の意見書二通を、被告会社に提出し、西岡も徳島南海労働組合委員長として同旨の意見書を提出した。

これに対し、就業規則を変更する旨通知を受けた全国一般労組は、被告会社に対し、同月二〇日、協議も十分になされたものではなく、第一次判決の趣旨を踏まえない、不利益なものであるとして、その実施を見送るよう求めた内容証明郵便を送付した。

なお、右規則の変更後、徳島南海労働組合に所属していた亀岡光夫は、変更に納得できず、同組合を脱退し、また、徳島南海タクシー労働組合に所属していた小林良造も同組合を脱退した。

(六) 同年一〇月二日、被告会社と徳島南海タクシー労働組合及び徳島南海労働組合は、前記争いのない事実等九記載の協定書を締結した。

しかし、右協定書に基づく、徳島労働基準監督署への就業規則の変更届は、平成九年三月二八日に行われ、これには西岡が個人として変更に同意する旨の意見書が添付されていた。

なお、被告会社は、右就業規則の変更については、変更したこと自体、全国一般労組に通知しなかった。

(七) 就業規則の変更は、事業所ごとに届け出ねばならず、それ故、被告会社の鳴門営業所についても、鳴門労働基準監督署に届けねばならなかったところ、被告会社は同監督署に変更届を提出しなかった。

4  以上の事実によると、労働基準法の改正に伴う労働時間の短縮や被告会社の経営状況などからして、従前の就業規則を変更すること自体の一応の必要性や、労働時間の短縮や定年の延長といった、労働者に有利な労働条件の変更も認められる。

しかしながら、各労働組合との交渉状況をみてみると、徳島南海労働組合は、事前に組合員から意見聴取を行っていたことが認められるものの、その方針は会社の存続を第一に考えた、いわば被告会社との協調姿勢を前提とするものであったといえ、被告会社と賃金の支払をめぐって訴訟中であった全国一般労組と大きく異なり、また、徳島南海タクシー労働組合については、安田らに交渉が一人(ママ)されており、変更後の組合からの脱退者の数をみると、必ずしも組合員の意見を反映した交渉がなされたといえるのか、疑問を抱かざるをえない。そして、被告は、六月の就業規則の変更については四八名の賛成を得た旨主張するのであるが、亀岡や小林がその後所属組合を脱退していること、被告会社は六月の変更については運転手以外の従業員には変更理由の説明等を行っていないこと、被告会社の代表者久保も、四名の未組織労働者について、二名に対し労働時間及び賃金について説明し理解を得たと考えている旨述べているものの(<証拠略>)、四名全員から理解を得たとまでは述べていないこと、その他の同意者の実数を裏づける証拠もないことをも併せ考慮すると、四八名の労働者から同意を得たという被告の主張は信用しがたいといわざるをえない。

さらに、被告会社と、最も多くの組合員を抱える全国一般労組との交渉状況について、久保は、「高松高裁の判決後でなければ話し合いはできないと反対された。」旨述べるのであるが(<証拠略>)、当時、第一次地裁判決においては全国一般労組の主張を認める内容の判決が言い渡されていたことからすると、久保の右供述は不自然といわざるをえず、むしろ、一〇月の規則変更については変更したことすら通知していないことをも考慮すると、交渉回数は重ねていたものの、被告会社において、同組合と合意に向けて誠実に交渉しようと姿(ママ)勢があったのか疑問を抱かざるを得ないのである。

以上のような事情にかんがみると、被告会社と徳島南海タクシー労働組合及び徳島南海労働組合との就業規則変更に関する交渉が、これに反対する、最も多くの組合員数を有する全国一般労組の組合員に変更後の規則の効力を及ぼすことを正当化しうるほどの実質を有していたとまでは認められず、また、全国一般労組との交渉も適切なものであったとまでは認められないのであり、このほか、労働者にとって重要な労働条件である賃金の変更に伴う減少額をも考慮すると、平成八年六月に変更された就業規則の効力を、全国一般労組の組合員に及ぼすことは相当でないといわざるをえない。

5  また、同年一〇月の就業規則の変更も、六月の変更を前提とするものでああ(ママ)る上、被告は四七名の同意を得たと主張するが、これを裏づける証拠はなく(徳島労働基準監督署への届出をみても、西岡個人の意見書が添付されているのみである。)、西岡、安田の証言によっても、交渉内容はなんら明確でなく、全国一般労組に対しては変更したこと自体通知しておらず、むしろ、徳島労働基準監督署への届出時期の遅れや、原告ら代理人から時短奨励金を受給したか否かを尋ねられて、久保は会社の代表者であるから当然に知っているはずにもかかわらず、「ちょっと覚えていないですね。」と不自然な供述をしていることからすると、時短奨励金を受給するための実績を繕うために、就業規則を変更したふしも窺えなくもないのである。このような事情を考慮すると、一〇月の規則変更の効力を、これに反対している原告らに及ぼすのは相当ではない。

三  争点三について

これまで超勤深夜手当が支給されてこなかった状況の下において、未払の超勤深夜手当額を算定する方法としては、原告らが主張する、前記第二(当事者の主張)三1記載の計算方法は、一応の合理性、相当性が認められる。

そして、右計算の基礎となった、勤務日数、時間外・深夜労働時間について、被告はこれを積極的に争っていないことからすると、平成五年五月から平成八年六月分までの未払賃金額の合計は、別紙四未払賃金額合計欄記載のとおりであり、同年七月から平成九年一二月までの未払賃金額の合計は、別紙三未払賃金額合計欄記載のとおりと認められる。

四  争点四について

平成五年五月から平成七年九月分の未払賃金については、各弁済期の翌日から起算して本件訴え提起時において二年が経過していること、及び、被告が平成九年一一月二八日の第一回口頭弁論において、右未払賃金の消滅時効を援用したことは、記録上明らかである。

よって、右期間分の未払賃金については、被告に支払義務はない。

この結果、被告に支払義務がある未払賃金額は、平成七年一〇月から平成八年六月分までが別紙二未払賃金額合計欄記載のとおりとなる(なお、別紙四「平成六年一一月から同八年四月分未払賃金」欄記載の金額を一八で除して一か月当たりの賃金を算出し、これをもとに七か月分を算出したのが、別紙二「平成七年一〇月から同八年四月分未払賃金」欄記載の金額であり、これに「平成八年五月分及び六月分未払賃金」欄記載の金額を加えたものが「未払賃金合計」欄記載の金額となる。)。

五  争点五について

前記争いのない事実等七記載の事実から認められる原告らが本件訴えを提起するに至った経緯、状況など、本件証拠上認められる諸般の事情、及び、労働基準法一一四条の趣旨にかんがみると、被告に、前記認容される各未払賃金と同一額の付加金の支払いを命じるのが相当である。

六  争点六について

証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告鎌田は、平成八年八月二一日に解雇を通告されたものの、右解雇の通告は解雇権の濫用であって、無効であったこと、平成八年三月から八月までの原告鎌田の平均時間外手当が二万四四一八円であったことが認められる。

それ故、解雇がなければ、原告鎌田は毎月右金額を受けとることができたものといえ、よって、被告は、原告鎌田に対し、平成八年九月以降(被告会社において、毎月二八日に支払われる給与は前月の二一日から当月二〇日までの分である。)、毎月二万四四一八円を支払う義務がある。

なお、原告鎌田に対する右未払は、無効な解雇処分に基づくものであることからすると、付加金の支払いを命じるのが相当であるとまでは認められない。

第四結論

以上の次第で、原告の請求は、主文一項ないし五項の限度で理由がある。

なお、原告鎌田の口頭弁論終結後の給与の支払を求める部分は、いわゆる将来の給付を求める訴えであるが、少なくとも判決確定後に係る部分についてはあらかじめ請求をしておく必要性を基礎づける事情があるとまでは認められないので、本判決確定後の給与の支払を求める訴えは不適法というべきである。

そして、付加金の支払義務は判決確定によって発生するものであるから、その支払を命じる主文二項及び四項については仮執行宣言を付さないことにする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本久 裁判官 大西嘉彦 裁判官 齊藤顕)

(別紙一) 当事者目録

両事件原告 山崎佳克

両事件原告 丸山次郎

両事件原告 佐藤政廣

両事件原告 中村進

両事件原告 枝沢理

両事件原告 仲野博人

両事件原告 西森由光

両事件原告 津野美則

両事件原告 髙倉吉邦

両事件原告 山本春重

両事件原告 鎌田和憲

両事件原告 小磯文夫

両事件原告 上野善將

両事件原告 岡本一夫

両事件原告 東條康男

甲事件原告 高橋末明

右原告ら訴訟代理人弁護士 大川一夫

同 松本健男

同 丹羽雅雄

同 養父知美

両事件被告 徳島南海タクシー株式会社

右代表者代表取締役 久保俊雄

右訴訟代理人弁護士(両事件につき) 田中浩三

同(乙事件につき) 田中達也

(別紙二)未払賃金、付加金目録(平成9年(ワ)第504号事件)

<省略>

(別紙三)未払賃金、付加金目録(平成10年(ワ)第163号事件)

<省略>

(別紙五) 労働時間及び賃金比較表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例